すしメロディ

「かわいく、かしこく、けんこうに」がモットーの女子大生

ココナッツミルクのカレーを作った。炭酸水は買い忘れた。

新宿のアジアスーパーストアーで購入した大量の生姜が余っていたのでジンジャエールを作ってみようと思い立った。調べてみるとまずジンジャーシロップを作る必要があるようで、りんごを入れるレシピや、生姜の砂糖漬けを作ってから煮出すレシピなど色々なやり方があったが、いろいろありすぎてめんどくさくなり、生姜とスパイス類と砂糖と水を鍋に入れて煮出して冷ませばできるようだったので、手元にあるマサラチャイに使うかんじのスパイスをいれて適当に作った。実際に入れたのは砂糖、はちみつ、生姜、カルダモン、クローブ八角、ブラックペッパー、鷹の爪、かな?煮出しているあいだはちみつと生姜のいい香りがする。

ここまでやってジンジャーシロップをいれておく瓶も炭酸水もないことに気づいたのでドン・キホーテまで買いに行くことにする。いつものようにイヤホンをして歩いていたのだが、公園を抜ける道でふと<<今日は分厚い上着なし出かけることができる最後の日だ>>という啓示が降りてきた。たしかにそうかもしれない。せっかくなのでイヤホンをはずして、自分の足音や周囲の人の喋り声、池に注ぐ水の音、少し先にある動物園で飼育されている鳥たちが騒ぐ鳴き声などを聞きながら歩くことにした。

杉の匂いがやけに強いのは先日の台風で倒れて道を塞いでいた杉が細かく切られて路肩に避けてあるからで、見回してみると人の踏み入らない場所では台風で折れた大きな枝がいまも落ちたままになっている。けれど人の通る場所はすっかりキレイになっていて、台風が来る前の日々のように、犬、子供、カップルで埋め尽くされている。ぼくは、おお人の営みよ、なんてことを思うが、ぼくは犬でも子供でもカップルでもないし、「犬、子供、カップル」が人の営みならぼくが営んでいるのはなんなんだ? そしてこの思考はなに目線なんだ? などと考えながら歩いていたら会社の同期の男の子がデートをしているのを見てしまってえっと思う。そりゃ人間なんだからデートだってするはずで、別にえっと思うことはないのだけど、ぼくが職場で勝手に作りあげたイメージでもっと派手そうな子が好きだと思っていたから、黄色いセーターを着た大人しそうな女の子を連れて歩いているのが意外だったのだ。

2人で並んで喋っていたかとおもうと、彼はサッと身を引いて女の子に向けて一眼レフを構える。かなり近い位置だ。女の子は笑って、彼の腰に軽く手をまわす。その写真をインスタにあげるのかもしれなかったし、2人だけで共有するのかもしれなかった。もしくは写真そのものは共有しないまま、写真を撮り撮られる空間さえ共有できれば良いのかもしれなかった。

ぼくはいよいよ、えっ、となってしまって目を伏せて、歩幅を大きくして立ち去った。

 

無印良品に行って、ボトル缶のチャイを買った。ぼくはもともと無印から出ている粉末のマサラチャイが好きでよく飲んでおり、ボトル缶のチャイもほぼ同じ味だったのだが、味が思いのほか濃く、自分で作っているものの2倍は濃い気がした。あ〜 これが正解だったか〜と思い、子供の頃テレビでよく聞いたカルピスの濃さについての議論を思い出していた。

カルピスの濃さについての議論というのは、原液でつくるカルピスが友達の家で出されたものの方が濃くて寂しかった、というような内容だが、ぼくの子供時代はもうペットボトルが流通しはじめていて原液で作る時代ではなくなりつつあったというのと、うちの父と付き合いがあった方々はお中元にはもっぱら素麺を選んでいたということもあって、原液を水で割ったカルピスをほとんど飲んだことがなくピンと来なかった。はなしの前提になっている「カルピスの原液がうちにあるよね」ということさえも適わなかった寂しさを感じていたと言っても良いかもしれない。滅多に見ないカルピスの、水玉が描かれた紙ラベルが巻きついている色の濃い瓶は、あるだけで特別なものだった。

しかし実はそもそも、ぼくにはカルピスの濃さを比較して寂しくなるという感覚があまり分からなかった。たしかに濃さによって味わいは変わるはずだが、その違いに好みの差こそあれ優劣や上下があるかというとないだろう、というのが当時のぼくの見解だった。シラケた生意気な子供だったが、カルピスの原液に金銭的なリソースが割かれているという感覚がなかっただけとも言えた。

あれから十数年経って、シラケていてもなにもはじまらないと気づき、大人になって金に困ることも増えたぼくが、チャイの濃さの違いを前に思うことは"あ〜 これが正解だったか〜"である。だからといってなにを変えるわけでもない。まあこんなもんだろう。

 

それからニトリで保存瓶とカレー用の皿を買って帰った。お皿を買ったらココナッツミルクのカレーを試したくなったので途中で鶏もも肉も買った。カレーをココナッツミルクで煮始めたときはココナッツの匂いが強すぎて大丈夫かと心配したが、鍋全体が温まるとココナッツの香りはグッと後ろに引いて各スパイスの香りを支えるような形に変わったので驚いた。

突然強い雨が降り始めた。土砂降りだ。雨が止んだらぐっと冷え込んで<<今日は分厚い上着なし出かけることができる最後の日だ>>という啓示が事実になるかと思われたが、雨が止んだあとも特段そのようなことはなく、それまで通りの過ごしやすい気温に落ち着いた。

炭酸水は買い忘れてしまった。

 

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